狡猾な王子様
*****
「おい、ふう!何度も電話したんだぞ!」
家に着いた頃には二十三時を過ぎていて、玄関のドアを開けると秋ちゃんが不機嫌な顔で立っていた。
「ごめんね、運転してて……」
心配してくれていたことはわかっているから、ちゃんと謝らないといけないことも頭ではよくわかっているのに……。
「私、もう寝るね……」
とてもじゃないけど上手く笑える自信がなくて、咄嗟に秋ちゃんから顔を逸らした。
「あっ、おい!」
逃げるように階段に向かう私を、秋ちゃんがすかさず追い掛けて来る。
だけど……。
「ごめん、秋ちゃん。今はひとりにして欲しい……」
階段を一段上がったところで足を止めて呟くように訴えてから再び歩き出せば、それ以上は秋ちゃんの足音が近付いて来ることはなかった。
こんな態度を取ったことで、きっとますます心配を掛けてしまっただろう。
秋ちゃんに対して申し訳なく思っていたけど、今の私は自分自身のことだけで精一杯だった。