狡猾な王子様
ベッドに潜り込んだ直後、ポロリと頬を伝ったのは生温い雫。


英二さんへの想いに比例するように溢れ出す涙が、枕とシーツを濡らしていく。


「……っ」


この恋をすんなりと諦めることなんてできないと、もうとっくに自覚している。


南ちゃんのように上手くいくことは有り得ないと思っているけど、彼女の話を聞いてからは無理に諦めるよりも時間の経過とともに解決できる時が来るんじゃないかと、淡い期待を持っていた。


だから……。


英二さんに会う度に心が弾んでも、彼に笑顔を向けられる度に胸の奥がキュンとなっても、いつかはそんな感覚たちが少しずつでも薄れていくはずだと信じ、今はまだこのままでいいんじゃないかと思えるようになっていた。


だけど、やっぱりそんなに安易なことじゃない。


だって、この想いは薄れていくどころか、日に日に強くなっていくばかりだから……。


それをどんな言葉よりも雄弁に物語っているのが、涸れることを知らないとでも言うように流れ続けるこの涙だった。

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