狡猾な王子様
どんな気持ちなのかな……。


ふと頭の中を過ぎったのは、今の私にはどうでもいいようなこと。


好きでもない人と体を重ねてどんな気持ちになるのか、なんて。


恋愛経験がほとんどない人間にわかるわけがないし、ましてや“こういうこと”において異性の気持ちを理解するのなんて難しいだろう。


それに、英二さんが恋人でもないような女性と関係を持っていることに対して、私にどうこう言うような権利はない。


ただ……。


「寂しいこと、だよね……」


私には、好きでもない人との行為はただ寂しいだけのものに思えて、もっと言えば心が擦り減ることなんじゃないかとも思った。


英二さんにとって、本当のところはどうなのかはわからないけど……。


脳裏に浮かぶ彼の表情はなぜか寂しげなものばかりで、あんなにもニコニコしていた人の笑顔を今は上手く思い出せない。


そんなことにまた胸の奥が酷く締め付けられて、脳裏に焼き付いた英二さんの表情に切なくなりながら瞼をそっと閉じた──。

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