狡猾な王子様
「英二はそんなこと話さないわよ」


そんなこともわからないのかと言わんばかりに眉を寄せた佐武さんの答えは、これまでの彼女の態度から考えると意外なものだった。


自分自身のことをあまり話さない英二さんのことだから、佐武さんの言葉は本当なのだろうけど……。


真実がどうだったとしても、彼女なら本人から聞いたかのように答えるかと思っていたから。


「でも、彼と一緒にいれば見えることだってあるわ。私は誰よりも彼の近くにいるんだから」


ただ、程なくして付け足された言葉で、佐武さんがなにを言いたいのかを理解できた。


自慢げな笑みを浮かべている彼女は、英二さんのことを誰よりも一番わかっているのは自分だと強調したかったのだ。


「今はまだ曖昧な関係だけど、そろそろけじめをつけてみせる。英二だってちゃんと考えてくれているはずよ。だって、私は仕入れ業者としてここに来ているだけのあなたとは違うもの」


私を真っ直ぐ見つめながら淡々と話した佐武さんの瞳は、とても自信に満ちていた。

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