狡猾な王子様
いつものパターンなら傷つくところだけど、ここまで見下されてしまうと素直に傷つくのがバカらしく思えて、心のどこかでは冷静な私がいた。


ただ、佐武さんの言葉には否定も肯定もしたくはない。


どうせなにを言っても無駄なことはわかっているから、ちっぽけなプライドをフル稼働させて小さな作り笑顔を貼りつけた。


「……私、そろそろ失礼しますね」


車に乗り込もうとした私に気づいたのか、私が言い終わる前に佐武さんは慌てたように口を開きかけたけど……。


恐らく私の前では冷静な態度を崩したくなかったらしく、彼女はすぐにあの瞳の笑っていない笑顔になった。


車に乗ってしまえば、あとはもうアクセルを踏むだけ。


窓越しにこちらを見ていた佐武さんは、私が車を動かすよりも早く踵を返した。


泣くな……。


私が決して立てない場所にいる佐武さんは、これから英二さんの腕の中に行くのだろうか。


その現実から目を背けたくて、彼女が店内に入るのを見る前にアクセルを踏み込んだ。

< 230 / 419 >

この作品をシェア

pagetop