狡猾な王子様
英二さんは相変わらずいつも通りで、配達に行く度に優しく接してくれる。


年末年始は木漏れ日亭もお休みだったから、十日近く会えなかったけど……。


そのことで心にぽっかりと穴があいたような寂しさを感じながらも、なぜか早く会いたいと思う日はなかった。


佐武さんの言葉がそうさせたのか、あの時に自分の気持ちを口にできなかった情けなさのせいなのか。


もしかしたらそのどちらも違って、不毛な恋に疲れてしまっただけなのかもしれないけど、数日振りに英二さんに会えた時にはやっぱり嬉しくて、結局は素直に喜んでいる単純な私がいた。


佐武さんとはあの日以来会っていなくて、木漏れ日亭からの帰り道では彼女と会わずに済んだことに毎回ホッとしていたけど……。


英二さんと佐武さんの間にはなにか進展があったのだろうかということがずっと気になっていて、もしふたりの関係が親密になっていればきっとつらくて泣いてしまうのに、知りたいような知りたくないような複雑な気持ちを持て余していた──。

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