狡猾な王子様
今日の配達先は、お父さんの知り合いが経営している居酒屋と、千佳子ちゃんの友達夫婦が経営しているフレッシュジュース屋。


その後にも、三軒廻ることになっている。


飲食店関係の配達先は、すべて身内の知り合いが経営している。


その中でも、おじいちゃんの知人からの注文が一番多い。


英二さんが経営している木漏れ日亭も、実はそのひとつ。


木漏れ日亭がオープンする少し前、おじいちゃんと知り合いだった彼の母方の祖父を通して、「仕入れをさせて貰いたい」と要望があったみたい。


それは、私が配達を手伝うようになったちょうど二年程前のことで、それからは木漏れ日亭への配達はほとんど私が行っている。


木漏れ日亭への配達日に心が弾むのは、実に簡単な理由。


英二さんのような素敵な男性に会えるとなれば、私みたいな地味な女でもウキウキしてしまうのだ。


もちろん、それは“ただの憧れ”というだけで、それ以上でもそれ以下でもない。


本当に、それだけのこと……。

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