狡猾な王子様
「それでいいんじゃないかな」


車内に控えめに響いたのは、優しい声音。


無意識のうちにフロントガラスを見ていた私は、声がした方へと視線を遣る。


すると、いつもの笑顔が私を見つめていた。


「うん……」


その優しさが嬉しくて、与えられた温もりに胸の奥が熱くなる。


「私……最近はずっと自分の気持ちを認めるのが怖くて、無意識のうちにどこかで誤魔化そうって考えてたんだと思う。でも……私にだって、自分の想いに向き合うことはできると思うから」


“私なんか”と思うのはやめようとしていることを強調したくて、“私にだって”という言葉を紡いだ声音は少しだけ力強かったと思う。


南ちゃんはそれに気づいたらしく、優しい笑顔を見せてから口を開いた。


「相手に伝えることって大切だけど、それよりもまずは自分自身が自分の想いと向き合うことが大切だと思う。だから、ふうちゃんはちゃんと一歩を踏み出したんだと思うよ」


その言葉にゆっくりと頷いたあと、彼女の瞳を真っ直ぐ見つめた。

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