狡猾な王子様
一時間半ほど掛けて数件分の注文の品を届けたあと、トランクにはいつものように木漏れ日亭の荷物だけが残っていた。


少し前まではこの状況に憂鬱になる日も多かったけど、この一週間はそれなりに笑顔で英二さんと接することができていると思う。


とは言え、相変わらず落ち込むことはあるし、気を抜けば俯いてしまう時もあるけど、それでも下を向く回数は減っている。


だからこそ、家族は私の表情の変化に気づいてくれたのだろうし、自分自身でもその自覚はあった。


もちろん、そのうちまた大きく落ち込んでしまうような出来事に見舞われることもあるのだろうけど、とりあえず今は笑顔を忘れないでいたい。


そんなことを考えながら着いた木漏れ日亭の駐車場に車を停め、トランクを開けた。


駐車場には英二さんの車しかなくて、ランチの時間帯もとっくに終わっていることから、恐らく店内にいるのは彼だけのはずだと予想できてホッとしたけど……。


段ボールを持ったところで、駐車場に一台の車がゆっくりと入ってきた。

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