狡猾な王子様
男性はただの運転手だったのか、後部席のドアを閉めたあとに着物姿の女性になにか声を掛け、運転席にその身を戻した。


すると、女性が木漏れ日亭の建物を見上げた。


そのまま外観をじっと見つめている女性から目が離せなくなったのは、背筋がピンと伸びた後ろ姿すらも上品だったから。


十秒ほどしてようやく動いた女性は、今度は視線を下げた。


その先にあるのは両手で、手に持っているのは紙だということはすぐにわかった。


ここからだとはっきりとした内容までは認識できないけど、視力に自信がある私の瞳はそこに釘付けになる。


白っぽい紙になにか書かれている物と、文庫本よりもひと回りほど小さいサイズの雑誌の切り抜きのような物。


女性の手にある二枚の紙はなんとなく見覚えがあるような気がして、どこで目にしたのだろうと必死に記憶を手繰り寄せていると……。


「あっ!」


程なくして答えに辿り着いた私から思わず大きな声が漏れてしまい、直後に肩をビクリと強張らせた女性が振り返った。

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