狡猾な王子様
「こんにちはー！」


「おっ、ふうちゃん！今日も元気だねぇ！」


「それだけが取り柄ですから」


駅前にあるこの居酒屋は、田んぼや畑に囲まれた田舎とは思えないくらいに客足が多く、毎回二十個詰めのトマトを仕入れてくれている。


週三回以上も顔を合わせているおじさんとは会うのが日課に思える程で、なんだかもう親戚のような気持ちすら抱いている。


「いつもありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ。それよりさ……ふうちゃん、最近ちょっと太ったんじゃないの？」


領収書を手渡すと、おじさんが白髪混じりの頭を掻きながら苦笑した。


「あ、バレちゃいました？」


鋭い突っ込みにチクリと痛む胸を隠し、眉尻を下げてヘラッと笑って見せる。


「やっぱりなぁ。ふうちゃん、ちょっとぽっちゃりし過ぎじゃないかい？」


「もう、お父さん！女の子にそんな失礼なこと言っちゃダメでしょ！」


おじさんが再び苦笑した直後、ちょうど奥から出て来たおばさんの怒声が飛んだ。

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