狡猾な王子様
「でも……今は違うかもしれないじゃないですか」


「そんなわけないよ。あの人が変わるとは思えない」


「そんなのっ──」


「わかるんだ。俺も兄貴も、いつも祖母の言う通りにしか生きさせてもらえなかったから」


言おうとした言葉を先読みされ、遮られて、呑み込んでしまった。


「茶道は嫌いじゃなかったけど、毎日が息苦しかった。夢も目標も持たせてもらえない人生が嫌で、必死に自分の気持ちを伝えて喧嘩したり家出をしてみたりしたけど、俺が思い通りにならないとわかると『もう二度と顔を見せるな』って言って終わり。……そういう人なんだ」


一気に話した英二さんの顔は、当時の記憶が苦く悲しいものだということを雄弁に語り、ため息混じりに苦笑を零した。


私が思っている以上に、彼はたくさんの苦労を重ねてきたのだと思う。


温かい家庭で育った私には想像もできないような日々は、どれほどつらかったのだろうと心が痛くなる。


だけど、それでもここで引き下がろうとは、どうしても思えなかった。

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