狡猾な王子様
「だから、ご実家に帰ってみるべきだと思うんです」


声に力が入っていた私の言葉に、英二さんは程なくして深いため息をついた。


「冬実ちゃんには、関係ないことだよ」


貼りつけられた笑顔から伝わる冷たい雰囲気に息を呑み、思わず喉が小さく鳴った。


同時に声まで飲み込んでしまったのか、続けるはずだった言葉が出てこない。


それでも視線だけは逸らさずにいると、彼が困ったように微笑した。


それは本当に些細な表情の変化だったけど、見せられていた冷たさはたしかに消えていた。


「例えばそれを差し引いて考えたとしても、俺が実家に帰るのはありえない。なにも変わらないとわかっていて、あの場所に帰る気にはなれないんだ。だからもう、この話はしないでくれるかな?」


だけど、英二さんの瞳はとても悲しそうで、まるで泣き出してしまいそうな顔に見えた。


ここで引き下がってはいけない、と直感が告げる。


根拠なんてないけど、このまま諦めてしまったら取り返しがつかないような気がした。

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