狡猾な王子様
「……意気地なし」


「え?」


自分がなにを呟いたのかを理解したのは、英二さんの瞳が丸くなった時だった。


「あっ……」


しまった、と思ったけどもちろん遅くて、彼が眉を寄せたあとでため息を零した。


「……そうだね。否定しないよ」


投げやりな声音が英二さんの心がちっとも動いていないことを物語り、やっぱり私にできることはないのだと思い知らされたけど……。


「英二さんは、向き合うのが怖いだけですよね!?」


“意気地なし”とまで言ってしまった私にもう怖いものはなくて、先のことは考えないように努めて言い放った。


眉間の皺を深くした彼の顔には怒りが滲み、不快感なんてとっくに通り越してしまったのだと悟る。


だけど、ようやく素の表情を見られたことに、ほんの少し、本当に少しだけだったけど喜びを抱いた。


「でも、私も同じです。私もずっと、向き合うのが怖かったから……」


だからこそ、自然と本音が零れていて、考えるよりも先に次々と浮かんだ言葉を口にした。

< 309 / 419 >

この作品をシェア

pagetop