狡猾な王子様
「英二さんも、ずっと諦めたままでいないでください。私にだってできたんですから、英二さんにできないはずがないですよ」


英二さんにもそれを伝えたくて、彼に諦めたままでいて欲しくなくて、寂しげな瞳を真っ直ぐ見据えた。


例え、英二さんの隣に立てなくても、その綺麗な瞳から覗く寂しげな色が優しいものに変わるのなら、それでいい。


彼には、ちゃんと笑っていてほしい。


「英二さんだって、理解してもらえなかったその時とは違うと思います。今は大切なお店があって、ここにはあなたとあなたの料理を求めて来るお客さんたちがいるんです。たくさんの人を笑顔にして来た今の英二さんの言葉なら、もしかしたらおばあさまにも届くかもしれない」


いつの間にか身を乗り出すように体が前のめりになっていて、今にも立ち上がってしまいそうなほどの勢いだったことに気づく。


こんなにも必死になっていた私の言葉が、英二さんの心に伝わるのかはわからないけど……。


黙ったままの彼の瞳は、私を真っ直ぐ見つめていた。

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