狡猾な王子様
「だから、考えてみてください。今みたいに寂しそうな顔をしたままでいないためと、英二さんがちゃんと笑えるように」


微笑む私に、英二さんは瞳を小さく見開いた。


驚きと戸惑いが同居したような表情からは心情を読み取れなかったけど、きっと彼の素直な顔なのだろう。


次に会う時には今までよりも英二さんとの距離が遠くなってしまっているかもしれないと思うと、今になって悲しくなってきたけど、後悔はしたくない。


だから、泣きたくなる前に立ち去ろうと決めて、紅茶が残ったティーカップに申し訳なさを抱きながらもポケットに手を入れた。


「これ」


そこから出した小さな箱をテーブルにそっと置き、ゆっくりと立ち上がる。


「よかったら受け取ってください。……でも、いらなければ捨ててください」


三粒しか入っていないチョコレートに込めた精一杯の想いは、彼に受け取ってもらえないことはわかっている。


それでも彼のために選んだ物だから、捨てられるのだとしても本人の手でそうして欲しかった。

< 312 / 419 >

この作品をシェア

pagetop