狡猾な王子様
キンと冷えた空気を纏った体を車に滑り込ませると、木漏れ日亭のドアは視界に入れないように車を出した。


駐車場を出るまでルームミラーは見ることができなくて、体が小さく震えているのは寒さなのか別の理由なのかわからないまま、いつもの道を走った。


後悔はしないと決めたのに、油断すれば自分の言動を悔やんでしまいそうで、無駄に音量を上げた歌で気を紛らわせた。


順番、逆になっちゃったな……。こんなはずじゃなかったんだけどな……。


だけど、気がつけば自然と先ほどまでの出来事を振り返ってしまっていて、昨夜考えていた通りに話せなかったことに苦笑した。


本当は、英二さんのおばあさんのことを話してから告白するつもりだったのに、勢い余って先に告白をしてしまうなんて……。


少し前の私には考えられないようなことだけど、成り行きだけで伝えた一度目とは違って、今度こそちゃんと素直な想いを伝えることができた。


だから、せめて今だけは後悔したくなくて、唇を噛み締めて笑みを浮かべた──。

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