狡猾な王子様
『チョコレート、美味しかったよ。ありがとう』
帰り際に優しい声音で掛けられたその言葉に喜びを感じ、直後には泣きたくなるほど胸の奥がキュウッと締めつけられた。
それは、嘘だったのかもしれない。
優しい英二さんのことだから、お節介な私にすら同情でもしてくれただけなのかもしれない。
それに、彼に渡したチョコレートは、手作りだったわけではない。
市外にある百貨店のチョコレート専門店で購入した物だけど、“人気No. 1”と記載されていた十二粒入りの箱を手に取る勇気が出なくて、悩んだ末に一番小さな物を選んでしまった。
だから、普通にサラッと笑って言葉を返せばよかっただけなのに、少しの間を置いて『ありがとうございます』と口にした私の笑顔はフニャリと歪んでしまって、涙を堪えていることが隠し切れていなかったと思う。
そんな不器用な私に、英二さんは『どうして冬実ちゃんがお礼を言うの?』と不思議そうに苦笑したけど、あの時の私は彼が与えてくれた優しさに救われたから……。
帰り際に優しい声音で掛けられたその言葉に喜びを感じ、直後には泣きたくなるほど胸の奥がキュウッと締めつけられた。
それは、嘘だったのかもしれない。
優しい英二さんのことだから、お節介な私にすら同情でもしてくれただけなのかもしれない。
それに、彼に渡したチョコレートは、手作りだったわけではない。
市外にある百貨店のチョコレート専門店で購入した物だけど、“人気No. 1”と記載されていた十二粒入りの箱を手に取る勇気が出なくて、悩んだ末に一番小さな物を選んでしまった。
だから、普通にサラッと笑って言葉を返せばよかっただけなのに、少しの間を置いて『ありがとうございます』と口にした私の笑顔はフニャリと歪んでしまって、涙を堪えていることが隠し切れていなかったと思う。
そんな不器用な私に、英二さんは『どうして冬実ちゃんがお礼を言うの?』と不思議そうに苦笑したけど、あの時の私は彼が与えてくれた優しさに救われたから……。