狡猾な王子様
【木藤英二】
着信を知らせるスマホのディスプレイに表示されているのは、【木漏れ日亭】ではなく英二さんの名前だった。
彼からの連絡は基本的に木漏れ日亭の固定電話から掛かってくるから、私たちが直接連絡を取り合うことは滅多にない。
ましてや今は二十一時を過ぎていることもあって、どうしても仕事の話だとは思えなかった。
同時に過ったのは嫌な予感で、思わず躊躇ってしまう。
それでも無視することはできなくて、小さな深呼吸をひとつしたあとで親指をスライドさせた。
「……もしもし?」
『こんばんは、冬実ちゃん』
私の応答にすかさず聞こえてきたのは、落ち着いた優しい声音。
抱いた負の予感に苦しさを感じていた心が、その柔らかな音にそっと包まれたような気がしたけど……。
『こんな時間にごめんね。今、少し話しても大丈夫かな?』
いつものように気遣いを見せた英二さんに対して、程なくして不安を抱えてしまった私は、戸惑いがちに「はい」と返すことしかできなかった。
着信を知らせるスマホのディスプレイに表示されているのは、【木漏れ日亭】ではなく英二さんの名前だった。
彼からの連絡は基本的に木漏れ日亭の固定電話から掛かってくるから、私たちが直接連絡を取り合うことは滅多にない。
ましてや今は二十一時を過ぎていることもあって、どうしても仕事の話だとは思えなかった。
同時に過ったのは嫌な予感で、思わず躊躇ってしまう。
それでも無視することはできなくて、小さな深呼吸をひとつしたあとで親指をスライドさせた。
「……もしもし?」
『こんばんは、冬実ちゃん』
私の応答にすかさず聞こえてきたのは、落ち着いた優しい声音。
抱いた負の予感に苦しさを感じていた心が、その柔らかな音にそっと包まれたような気がしたけど……。
『こんな時間にごめんね。今、少し話しても大丈夫かな?』
いつものように気遣いを見せた英二さんに対して、程なくして不安を抱えてしまった私は、戸惑いがちに「はい」と返すことしかできなかった。