狡猾な王子様
「秋も、早く結婚してくれないかしら」


「南(みなみ)ちゃん、いい人だもんね」


秋ちゃんの恋人の南ちゃんのことを口にすると、お母さんがため息混じりに眉を寄せた。


「そうよ。あんなに可愛くて優しい子なんだから、秋の彼女でいてくれるのなんてきっと今だけよ。南ちゃんに愛想尽かされる前に、さっさと結婚して欲しいものだわ」


「それ、秋ちゃんが聞いたら怒っちゃうよ」


「だから、ここだけの話ね」


「はぁい」


千佳子ちゃんと弥生ちゃんは、私とお母さんの会話に肩を震わせてクスクスと笑っている。


おばあちゃんも含め、女が集まればこんな会話も日常茶飯事。


こんな時、お父さんは「かしましい」とため息をつくけど、こういう風景を見て楽しそうに笑っていることも知っている。


それはおじいちゃんも、そして春ちゃんやなっちゃんも同じだ。


秋ちゃんはいつもぶっきらぼうだけど、皆と居間で過ごす時間を楽しんでいるのを知っている。

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