狡猾な王子様
「だから、喧嘩とかじゃなくて、英二さんのことをただ傷つけるだけの時が来る気がして……」


喧嘩なら、仲直りができるかもしれない。


だけど、一方的に傷つけてしまうばかりだったら、きっと修復できない時が来る。


「それが怖いんです……」


思わず瞳を伏せた私の頭の中には、不安なことばかりが過る。


私と英二さんが釣り合わないこととか、彼を目当てにしてやって来る綺麗な女性客たちのこととか、言い出せばキリがないから口にはしないけど……。


「そうだね」


悲しげな苦笑でため息混じりに頷いた英二さんは、そういうことはすべてお見通しのような気がした。


「先のことはわからないけど、もし一緒にいられることになれば、そういうことはあるのかもしれない」


それらを見据えていると言わんばかりに、彼の話し振りは冷静だった。


「冬実ちゃんにはいろいろ見られてるし、ひどいこともたくさん言ったから俺の本質も知られちゃってるし……。そういうのは、もう取り繕うこともできないだろうから」

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