狡猾な王子様
英二さんの言葉で傷ついたことなんて、今の私の中ではたいした問題ではない。


その時にはたしかにつらかったし、泣いたりもしたけど、今にして思えば一生残るほどの傷というわけではないような気がするから。


だからもし、これから彼と一緒に過ごせるのなら、そういうものは少しずつでも癒えていくのではないかと感じた。


ただ、佐武さんとのことは、そんな風には思えない。


ふたりの関係を何度も目の当たりにしてしまった以上は簡単には忘れられないし、ふとした瞬間にそんな過去に嫉妬してしまうかもしれない。


英二さんが手の届かない人だと思っていた時は会えるだけでも嬉しかったのに、彼の想いを知った今はあの頃ように健気な気持ちでいられる自信がない。


既に欲張りになり始めている自分自身のわがままな部分に眉を潜め、英二さんの気持ちはなによりも嬉しいはずなのに、彼の想いを受け入れる勇気が出なかった。


だけど、綺麗な瞳に真っ直ぐ見つめられたままの私は、“拒絶する”という選択肢も持てずにいた。

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