狡猾な王子様
「でも、そもそも取り繕うつもりはないんだ。そういうのは、もうやめたい」


どうすればいいのかわからない私を見兼ねるように、英二さんが小さな笑みを浮かべた。


「今までは本当にどうしようもない人間だったけど、これからは冬実ちゃんみたいに真っ直ぐに向き合えるように努力するよ。だから、どんな小さなことでも、冬実ちゃんが感じてる不安や悩みを一緒に抱えていきたいと思ってる」


それはきっと、本音なのだろう。


「簡単に信じてもらえないのは当たり前だから、信頼はこれからの態度で得ていくしかないんだけど」


心から信じられるかと訊かれたら頷くことはできないけど、少なくとももうずっと誠意は伝わっている。


「冬実ちゃんの傷が癒える日が来るかはわからない。でも、傷つけた以上に大切にするから、俺の傍にいてくれないかな?」


眉を下げた微笑みからは不安と緊張が滲んでいて、そんな彼の瞳から目を逸らせない。


やっぱり、英二さんはずるい。


彼にこんな顔をされてしまったら、私は……。

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