狡猾な王子様
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木々が生い茂る道を抜け、木漏れ日亭を目指す。
今日は配達先が少なくていつもよりも一時間以上も早く着いてしまったから、今はまだランチの時間帯のはず。
お客さん、まだいるのかな……。
ルームミラーで前髪をチェックしながら、ため息と同時に不安が芽生える。
もし女性客が残っていたら、上手く笑える自信がない。
だって……。
動き易くてラフな服ばかりをチョイスする私は、華やかなワンピースや綺麗なスカートを纏う女性たちと同じ空間にいると、どうしても居た堪れなくなってしまうから……。
段ボールを持ってドアの前に立ち、頭をフルフルと振ってから小さな深呼吸を繰り返す。
緊張でドキドキしている心が僅かに落ち着くのを感じ、ようやくドアノブに手を掛けた。
「こんにちはー!山野農園でーす!」
そして、自分の中で最上級の笑顔を張り付けて明るい声音で挨拶をした直後、開いたドアの先に広がっていた光景に息を呑んだ。