狡猾な王子様
「……私なんかでいいんですか?」


不安を込めた言葉に、英二さんは瞳を小さく見開いたあとで、ふっと破顔した。


「私なんか、じゃない。冬実ちゃんだから、だよ」


優しくそんなことを言われてしまったら、もうどんなに頑張っても首を横に振ることなんてできそうにない。


「嫉妬深いですよ……」


「可愛い、って思う自信があるよ」


「すぐ泣きますよ」


「抱きしめて、泣き止むまで付き合うよ」


ただ、まだ頷くこともできなくて、まるで駄々をこねるかのように不安を吐露していったけど、私の吐くデメリットなんてたいしたことではないと言わんばかりに、彼は柔らかい笑顔を崩さない。


その余裕に少しだけ悔しさを感じながらも、不安で凝り固まっている心が僅かに和らいでいくことに気づいた。


「過去のこと、グチグチ責めるかもしれないですよ」


「それだけのことをしてきたから、何度でも謝るよ」


それでもまだ踏ん切りがつかなくて可愛くないことを言うと、微苦笑とともにそう返された。

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