狡猾な王子様
「純粋でも、真っ直ぐでもないけど、心も君だけのものになりたいんだ」


精一杯の想いを言葉にされて、胸の奥がキュンと締めつけられる。


甘くて、切なくて、愛おしくて、もうどうしたって溢れる気持ちを抑えられそうにない。


好きだ、と思った。


誰よりも、なによりも。


器用な振りをしているくせに、本当は不器用でどうしようもないこの人のことが好きで好きで堪らない。


視界は涙に邪魔をされ、声が喉に絡みつくようだったけど、英二さんの瞳を真っ直ぐ見つめた。


「返さなくてもいいですか……?」


ひと呼吸置いてから震える声で尋ねたのは、まだ信じ切れていない気持ちから感じている不安。


だけど、そんな私を余所に、彼はどこかおかしそうに笑った。


「もちろん」


続けて「そうしてもらわないと困る」なんて言われた時には、顔がグチャグチャに歪んでしまっていたとは思うけど……。


「……っ、好きです」


喜びに溢れた胸の内から、ようやく素直な想いだけを言葉にすることができた。

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