狡猾な王子様
たしかな喜びを感じているのに、それを覆い尽くすほどの羞恥のせいで全身が熱い。


今度は恥ずかしさのせいで泣いてしまいそうで、顔を上げる勇気が出ない。


「冬実ちゃん?」


そんな私の顔を、英二さんはごく普通に微笑みながら覗き込んできて……。


「み、見ないでくださいっ……」


震えそうな声で告げながら、咄嗟に彼の視界から逃げようと俯いた。


「隠さないで」


それなのに、あっという間に顎を掬われ、優しい声音とは裏腹に強引に顔を上げさせられる。


視線がぶつかったことに慌てて瞳を伏せると、英二さんがそれを追いかけるように顔を傾けてきたから、またしても綺麗な瞳に捕らわれてしまった。


もう、逃げられない。


そう感じた直後、おもむろに親指で唇をなぞられた。


「こっちは、またそのうちね」


まるで悪戯っ子のように楽しげな笑顔を見せられて、彼には一生敵わないことを予感する。


だけど……。


この人の心が私だけのものになるのなら、それでもいいと思えた──。

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