狡猾な王子様
「最近、すごく忙しそうですね」


ミルクティーを淹れてくれた英二さんは、少しだけ疲労の混じった笑顔を見せた。


「お陰さまで、最近は予約も埋まるのが早くなったよ」


先日聞いた話だと、一週間先の予約が埋まることも増えてきたのだとか。


最寄り駅から距離があり、決して便利な立地ではないのに、木漏れ日亭の人気振りには拍車がかかっている。


「ひとりで大変ですよね?」


「たしかに前よりも大変だけど、予約の人数がわかれば仕込みでカバーできることもあるし、なんとかがんばるよ」


平然と笑っているけど、彼が今週も来週も休めそうにないことは知っている。


常連客からのリクエストで、四月からは不定休をやめて定休日を設けることに決めたらしいけど、今の英二さんの体調が気がかりだった。


「スタッフを雇ったりしないんですか?」


だから、本来なら私が口を出すべきではないとわかっているけど、訊かずにはいられなかった。


彼は数秒ほど難しい顔をしたあと、戸惑いがちに口を開いた。

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