狡猾な王子様
カウンターのこちら側にいる女性客が、上半身を乗り出すようにして向こう側にいる英二さんの首に腕を回している。


視界に飛び込んで来たその状況を、すぐに理解することができなかった。


私の姿を捕らえた英二さんの瞳が、小さく見開かれる。


「……冬実ちゃん」


「……っ!すっ、すみませんっ……!本当にごめんなさいっ!!あのっ、見るつもりじゃ……」


見てはいけないものを見てしまったような気がして、思わず口をついて出た謝罪。


ただ、慌てふためきながらもなぜかその場から動くことができなくて、段ボールを持ったままの体が震えそうになった。


「えーっと……」


言葉を探すように気まずそうに笑う英二さんと、全く顔色を変えることのない女性客。


そんなふたりを前に、私は視線を泳がせてしまう。


程なくして、小さなため息が沈黙を破った。


「今日は帰るわ」


凛とした声が、静かな空間に響く。


そこでようやく、店内にいるのは私たちだけなのだと気付いた。

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