狡猾な王子様
「人を雇うことを考えてないわけじゃないんだ。一応、近いうちにホールスタッフの求人は出すつもりだし」


やっぱり余計な心配だったのだとわかって謝罪しようとしたけど、英二さんは「でも」と続けた。


「最近は、山野農園みたいな形もいいかも、って思うようになってて……」


「うちみたいな形ですか?」


どこか濁したような言い方に首を傾げると、気まずそうな笑みが浮かべられた。


「その、家族経営っていうか……家族でやったり、とか」


歯切れの悪い口調は彼らしくなくて、なんとなく緊張感も伝わってくる。


「あっ、もちろん今すぐって意味じゃないし、冬実ちゃんが嫌なら忘れてくれていいんだけどね」


「えっ!?」


そこでようやく、家族経営の“家族”に私が入っているのだと気づいて、大きな声が漏れた。


唐突すぎて驚きを隠せないけど、沈黙が訪れた中で英二さんの言葉の意味を察した瞬間、顔が真っ赤になった。


すると、私を横目で見ていた彼も、みるみるうちに頰を赤くしていった。

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