狡猾な王子様
これはつまり、私と英二さんの未来の話。


妄想ばかりしていた私もさすがに予想以上の展開に言葉が出てこなくて、そんな私の様子を見ていた彼は、失敗したと言わんばかりに手で顔を隠した。


「ごめん、忘れて。……ちょっと先走りすぎた」


ため息を聞かされたあと、ようやく喜びが込み上げてきて胸の奥が大きく高鳴った。


「この間、冬実ちゃんが作ってきてくれたトマトゼリーが美味しかったことを思い出して、急にこういうこと考えるようになってさ。……でも、いきなりこんなこと言われても困るよね」


英二さんの頰はまだ赤みが残っていて、紡がれた言葉たちが本音であることが伝わってくる。


「そんなことないですっ‼︎」


だから、慌てて首を力いっぱい横に振りながら、身を乗り出すようにして声を張り上げた。


「嬉しいですよ、すごく!」


「え?」


きょとんとした彼が可愛くて、余裕なんてないのにときめいてしまう。


「だって……!」


高鳴る鼓動を抱えながら、必死に言葉を探した。

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