狡猾な王子様
触れるだけのキスで呆然としている私は、英二さんから見れば子どもみたいなのかもしれないけど、彼はただただ幸せそうに笑っている。


こんな表情を見せられてしまったら、胸の奥が甘く締めつけられるのは当然のことで、たぶんそんなことすらも見透かされているのだろう。


これからも英二さんに翻弄される予感しかしなくて、敵わないとわかっていても少しばかり悔しくなったけど……。


「あんまり可愛い顔しないでね。理性を保てなくなりそうだから」


甘い声音とともに吐息が耳に触れた瞬間、その気持ちは一瞬で吹き飛んでしまった。


耳もとで囁くなんて、ずるい。


恥ずかしくて、まだ心が追いつかなくて、彼と目を合わせられないと思った。


だけど……。


次の瞬間には英二さんに顔を覗き込まれ、飛び切り甘い笑みに視界を占領されしまった。


「好きだよ」


あぁ、もう……。なんてずるい人なんだろう……。


いつだって甘いルックスと声で、私の心を奪っていく。


そんな彼はきっと、“狡猾な王子様”──。





END.


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