狡猾な王子様

1.本気の彼は甘く優しく

〈本気の彼は甘く優しく〉



*****


薄暗い空間に響く、サウンド。


正面のスクリーンの中では、主演俳優がふたりの敵と戦っている。


機密組織の一員である主人公は、組織内で一、二を争うほどのエリートという設定だけあって、戦闘シーンは迫力があるだけではなく華麗だった。


冒頭からハラハラドキドキする展開ばかりで、ストーリーはまだ中盤だというのに、私はいつからか拳を握ったままでいる。


昔からアクション映画が好きな秋ちゃんの影響で、居間のテレビで観ている秋ちゃんにつられてなんとなく観ることくらいはあったけど……。


映画館で鑑賞したのは初めてで、テレビとはあまりにも迫力が違うことに驚いたのはもちろん、全身にビリビリと伝わるようなサウンドで繰り広げられる戦闘シーンが流れる度に、つい体がビクリと反応していた。


「大丈夫?」


不意に、左耳の傍で囁き声が落とされた。


すぐに掻き消されてしまったほどの小さな声は、きっと周囲にいる人たちを気遣ったのだろう。


「え?」


スクリーンを気にしながらも左側を見た瞬間、秀麗な顔が予想よりも遥かに近くにあったことに息が止まりそうになった。

< 389 / 419 >

この作品をシェア

pagetop