狡猾な王子様
「さっきから、結構驚いてるみたいだから」


心配そうに苦笑している英二さんが、さらに顔を近づけてくる。


「もし、怖かったら出ようか?無理することないんだよ?」


「……っ!」


その距離に今度こそ息が止まり、彼の吐息が触れた耳もとから全身に熱が回ってしまいそうになった。


「冬実ちゃん?」


「だっ……!」


先ほどまでとはまったく違う意味でドキドキし始めたせいで、思わず大声を出しそうになってしまったけど、慌てて思い留まった。


「だいじょうぶ、です……」


小さな声で答えた私は、英二さんの顔をまともに見ることができない。


ただ、最初に飛び出た声は思ったよりも大きくはなかったようで、周囲の視線が集まらなかったことだけは幸いだった。


「本当に?」


私の耳もとで再度囁いた彼は、本気で心配してくれているだけ。


それなのに、私は肌にふんわりと触れた吐息と囁き声に背筋が粟立ちそうになって、コクコクと頷くだけで精一杯だった。


「そっか。話しかけてごめんね」


そのあとすぐ、安心したように微笑まれて傍にあった顔が離れていったけど、私の心臓は煩いくらいに早鐘を鳴らし、しばらく落ち着くことはなかった──。

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