狡猾な王子様
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結局、コーヒーショップでお茶をして、せめて日付が変わらないようにと気遣ってくれた英二さんが、家まで送ってくれることになった。
家に近づくほどに車も人も少なくなっていくから、彼とふたりきりだということを強く意識してしまう。
だから、ほんの少しでも沈黙が訪れると緊張感を抱きそうで、会話を途切れさせないようにしていたけど……。
不意に少しの間が空いて、「あのさ」と静かに落とされた。
「さっき、俺に迷惑を掛けないように気をつけるって言ったよね」
僅かな沈黙のあとの神妙な声音に緊張しながらも右隣を見ると、英二さんは前を向いたまま真剣な顔をしていた。
「あの言葉、ちょっと寂しかった」
「え?」
予想外の言葉に戸惑った私を横目で見た彼が、「ちょっと停めるね」と微笑んだ。
この辺りは昼間でも車通りが少ないから余計な心配をする必要はないけど、車を停めてまで話す必要性があることに不安が募る。
英二さんの言葉からその心情を読み取れることがあるとしたら、私は彼を傷つけてしまったのかもしれないということだけ。
邪魔にならないように車を停めたあとにエンジンが切られ、途端に車内には静寂が降りた。