狡猾な王子様
「俺は、冬実ちゃんのことなら、どんなことでも迷惑だなんて思わないよ」


暗い車内で視線が交わると、英二さんが優しく言った。


「例えば、なにかのキッカケで嫌なことやつらいことがあったとしても、大切な人とのことを迷惑だと感じたりはしない」


声はとても優しいけど表情には真剣さだけが色濃く出ていて、それが彼の本音なのだということが伝わってくる。


「だから、冬実ちゃんが迷惑だと思うことでも俺はそんな風に思ったりはしないし、これからはそういう気持ちは持たないようにしてほしい」


だけど、簡単に気持ちを切り替えることはできないから戸惑いを隠さずにいると、英二さんは私の気持ちを見透かすように微笑んだ。


「もしそれができないって言うなら……」


そっと右手が伸びてきて慈しむように頰に触れたあと、そのまま髪に指が差し込まれて頰が包み込まれた。


「俺にだけは、迷惑を掛けてよ」


少しのくすぐったさに肩を竦めそうになった時、柔らかな笑みが零された。


それはまるで、好きだという気持ちが溢れそうだと言わんばかりの破顔。


「冬実ちゃんに困らせられるのなら、大歓迎だから」


そして、それを裏づけるかのような言葉が空気を揺らした。

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