狡猾な王子様
「信頼なんてできないかもしれないけど、俺は冬実ちゃんのこともこれからのことも真剣に考えてるつもりだし、これでもいろんな覚悟だってしてるんだ」


当たり前のように話す英二さんは、私が思っている以上にいろいろなことを考えてくれていたようで、言葉にも表情にも迷いがない。


「だから、冬実ちゃんが『迷惑になる』って考えるようなことでも、ちゃんと受け止めてみせるよ」


優しく諭すような口調は、真剣以外の何物でもなくて、驚くほど素直に胸に響いた。


彼の言葉を疑う気持ちなんて微塵も芽生えなくて、ただただ喜びを感じている。


「ありがとうございます……」


感動して泣きそうだった私は、震えそうな声で小さく零した。


「お礼なんていらないよ。冬実ちゃんが傍にいてくれることが、俺にとってはなによりも幸せなことなんだ。だから、俺は君のすべてを受け止められる存在でいたい」


温かい手に包まれたままの頰は熱を帯び、私には勿体ないくらいの優しい言葉をくれる英二さんに胸がときめく。


甘くて柔らかいものはきっと幸せという感情が生む感覚で、ドキドキと脈打つ鼓動はちっとも落ち着きそうになくてうるさいのに、温もりに満ちた心はとても穏やかだった。

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