狡猾な王子様
「あ、の……っ、んっ……!」


なにを言おうとしたのかもわからないまま口を開くと、一瞬だけ視界に映った悪戯な笑みがすぐに見えなくなって、気がつけば下唇を食まれていた。


英二さんの顔が見えなくなったのは、彼があまりにも近くにいるから。


そのことを理解するまでに数秒を要し、そうしている間に唇の隙間を縫って自然と舌が差し込まれていた。


「っ、えいじさっ……」


声を出すことすら叶わなくて、逃げることも隠れることもできない私の舌が熱い舌に捕まってしまう。


それはまるで、発した声どころか呼吸すらも飲み込むように。


甘く、強く、巧みに。


私の口腔を余すことなく支配されるのではないかと思うほど、熱くて深いキスだった。


随分と長いキスのあとで英二さんの唇が離れた時には、呼吸は大きく乱れ、心臓が早鐘を打っていた。


ハァハァと息をする私の目の前には、少しだけ余裕を失くしたような悩ましげな顔をした彼がいて、胸の奥がキュウッと締めつけられた。


「顔、熱いね」


私の頰を包んだままの手をゆるりと動かし、指先で肌をくすぐられる。


思わず小さな声が漏れてしまいそうになったけど、なんとか飲み込んでから息を吐いた。

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