狡猾な王子様
「映画館でも、真っ赤だったね」


「えっ?」


「暗かったからちゃんと見えてたわけじゃないけど、俺が耳もとで話してる時、すごく緊張してたよね?」


悪戯っぽく微笑まれて、あの時の英二さんの態度はわざとだったのだと悟る。


「からかったんですか……」


眉を寄せた私に、彼はバツが悪そうにしたあとで「ごめんね」と苦笑した。


「映画に夢中になってる姿があまりにも可愛くて、こっちを見てほしくなったんだ」


からかわれたのだとわかって悔しくなったのに、“可愛い”なんて言われたうえに素直に白状されてしまうと、なにも言えなくなる。


英二さんは、やっぱりずるい。


私がどんなに必死になったって敵うことはなくて、彼に翻弄されるのはいつだって私の方なのだ。


だけど……。


「そういう顔も可愛いんだけど、あんまり俺を虜にさせないでね。ただでさえ離れたくないのに、本気で帰したくなくなるから」


困ったような笑みでサラリとそんなことを言われた時には、もう英二さん以外のことはどうでもよくなっていた。


こんな風に思わせられるのは少しだけ悔しいけど、本気の彼の甘さと優しさに包まれた心は呆れるくらい単純で、今日もすっかり虜にされてしまっていた──。




*****

〈本気の彼は甘く優しく〉
END.


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