狡猾な王子様
「いえ、冬実さんの年齢の問題ではないと思ってます。お世話になっている山野農園さんの娘さんとお付き合いさせていただいているので、できればもう少し早くご挨拶に伺わせていただくべきでした」


「あの、それは英二さんが悪いわけじゃ……」


頭を下げた英二さんを見て、思わず口を挟んでいた。


だって、こうなることを渋っていたのは、私なのだから。


六月も半月が過ぎた今、彼と付き合うことになってから三ヶ月の月日が流れた。


映画館の帰りに話してくれたように、英二さんはずっと私の家族に挨拶をしたいと言ってくれていたけど、私が踏ん切りがつかなかったのだ。


彼の気持ちはよくわかっているつもりだったけど、先月まではさすがに了承できるだけの余裕も勇気もなかったし、本当は今だって覚悟を決め切れていないのかもしれない。


それでも、やけに気にしている英二さんや、家族に自分からきちんと報告できていないことが気掛かりでもあって、なんとか意を決して了承した。


そのあとはトントン拍子に話が進み、二週間ほど前に金曜日の今日なら家族全員が揃うとわかると、彼は「まだ予約が入ってなかったから」とディナータイムを臨時休業にしてまで挨拶に来てくれることになったのだ。

< 406 / 419 >

この作品をシェア

pagetop