狡猾な王子様
「いや、仕事とプライベートは別ですから、本当にそんなに畏まらないでください」


「ありがとうございます。あの……」


再び同じようなことを言ったお父さんに、英二さんは少しだけ表情を和らげたあとで緊張の面持ちになった。


「山野農園さんとは今後もぜひお付き合いを続けさせていただきたいのですが、冬実さんとのお付き合いを許していただけますでしょうか」


座布団から下りたままの彼が、両親と祖父母、そのあとでお兄ちゃんたちのことも見た。


程なくして、両親はおもむろに顔を見合わせ、お父さんがニッコリと笑った。


「もちろんです」


続けて落とされたのは、どこか嬉しそうな声音。


張り詰めていたような空気が和らいで、英二さんもホッとしたように微笑を漏らした。


つられるように息を吐いた私も思わず笑顔になったけど、お父さんだけは笑みを消し、代わりに心配の色を浮かべた。


「冬実は、内気で消極的な子です。末っ子なのに幼い頃からほとんどワガママを言わないような娘で、みんなに可愛がられて育ち、兄たちには過保護にされてきました。だから、世間知らずなところもあるかもしれません」


そして、言葉を選ぶようにしながら、私のことを話し始めた。

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