狡猾な王子様
「でも、幼い頃から家族思いで、反抗期もほとんどありませんでした。同世代の子たちが夜遅くまで遊んだり外見を気にするような年齢になっても、泥塗れになることも厭わずに畑仕事を手伝ってくれて、文句ひとつ言うこともなかった。親の贔屓目ですが、今時珍しいくらい真っ直ぐに育ってくれたと思ってます」


私のことを話すお父さんは真面目な顔をしていて、なんだか泣きそうになった。


親バカな人だなんて知らなかったし、こんな風に言われるのはくすぐったいような恥ずかしいような気持ちなって、少しだけ居づらくなったけど……。


「はい」


隣にいる英二さんが大きく頷き、知っていると言わんばかりに微笑んだから、鼻の奥がツンと痛くなった。


私の視線に気づいた彼がフッと破顔したあと、再びお父さんの方を見つめた。


その横顔はすっかり真剣なものに戻っていて、私も泣かないように努めながら両親を見る。


すると、両親と視線がぶつかって、直後にはなぜかふたりとも困ったように微笑んだ。


「決して美人ではありませんが、人様の気持ちに寄り添える、心根の優しい子です。だから……」


美人じゃないのは遺伝だよ、なんて心の中で呟いた時、お父さんが頭を下げた。

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