狡猾な王子様
「どうか、娘をよろしくお願いします」


大袈裟だなぁ、って頭の片隅で考えて。


一緒になって頭を下げたお母さんにも、結婚の挨拶じゃないんだから、なんて心の中で呟いて。


ついつい呆れたような笑みが零れたと思った時、頰に温かい雫が伝ったことに気づいた。


「あれ?……やだ、私……」


慌てて涙を拭って笑って見せたけど、顔を上げた両親と目が合うと堪え切れなくなりそうになって、ツーンとした痛みを必死に抑えた。


英二さんもみんなも私のことを見ているから、きっと泣いていることはバレていたと思う。


ただ、見られたくないとは思わなかったし、なによりも両親の気持ちがとても嬉しかった。


「僕はまだまだ未熟で、店も軌道に乗ったばかりです。そんな僕との交際ですから、ご両親はもちろん、みなさんもいろいろなご心配をなさると思います」


そんな私の隣で口を開いた彼の声音には、今までで一番大きな緊張が混じっていたような気がするけど……。


「でも、冬実さんとのことは真剣ですし、将来のこともきちんと考えています。ですから、僕なりに全力で冬実さんを守ります」


そう話した真剣な横顔からは、揺るぎない覚悟と私への想いが伝わってきた──。

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