狡猾な王子様
「彼女は、“彼女”じゃないよ」


英二さんは悩むような表情をしてからどこか困ったように笑って、「重いよね」なんて言いながら私の手から段ボールを取った。


少しだけわかり難い言葉に、思わず小首を傾げる。


程なくしてその意味を理解して、ほんの一瞬だけ心が軽くなったけど……。


『また連絡して。……今度はお店が休みの時に、ね?』


不意に過ぎったあの女性の台詞に、頭の中が凍り付いた。


恋をしたことはあるけど、恋愛には慣れていない。


そんな私でも、さっきの光景と英二さんの言葉を考えれば、あまりよくないことを想像してしまう。


ただ……。


臆病な私にはそれを確かめる勇気はなく、英二さんもそれ以上はなにも言わなかった。


「白菜、ありがとう。助かったよ」


「いえ……」


ヘラリと笑って見せたけど、きっと今の私は情けない顔をしている。


眉が下がりそうになるのを堪えようとしているのに、もともと下がりがちな眉がますます落ちていくのがわかった。

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