狡猾な王子様

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『木漏れ日亭』の二階にある部屋のソファーで、英二さんはネクタイを緩めながら息を吐いた。


直後に目が合って、彼が苦笑する。


「殴られるくらいの覚悟で行ってたんだけど、許してもらえてよかったよ」


「英二さんを殴らせたりしませんよ」


笑顔を返したけど、本当は秋ちゃんが手を出すんじゃないかと少しだけ心配していた。


秋ちゃんは英二さんのことをずっと良く思っていなかったし、なんだかんだで一番過保護だから。


だけど、秋ちゃんはなにも言わなくて、家を出てくる前に目が合った時には小さな笑みが向けられた。


そんな表情を見せてくれるなんて思ってもいなかった私は、滅多に笑ってくれない秋ちゃんのレアな笑顔をしっかりと脳裏に焼きつけた。


「英二さん」


「ん?」


「今日はありがとうございました」


私の言葉に、英二さんが「お礼なんていらないよ」と微笑む。


「挨拶はきちんとしておきたかったし、俺がお願いしたことなんだから」


「でも、やっぱり嬉しかったし、家族も喜んでくれてたので、ありがとうって言いたいんです」


喜びを隠さずにいる私に、英二さんが「冬実ちゃんのそういうところ素直でいいと思うよ」と破顔し、額にキスをしてくれた。


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