狡猾な王子様
「えっと、今日はそれだけなので……」


俯きがちに領収書を手渡し、頭をペコリと下げた。


「あ、冬実ちゃん。今、アイスティー淹れるから」


「いえっ……!」


自分で思っていたよりもずっと力強く発してしまった拒絶の言葉が、静かな店内にやけに響いた。


上手く笑えない。


英二さんの顔を、真っ直ぐ見ることができない。


すぐ傍にいる彼は、いつもと同じように笑みを浮かべてくれているのに……。


英二さんが淹れてくれる紅茶も、それを飲む間のお喋りも、いつもとても楽しみにしていた。


だけど……。


「あの……」


今日は、絶対に普通に振る舞えないから……。


「今日はまだ、配達とか畑仕事が残ってて……。だから……」


なんとか嘘を思い付いたけど、それを紡ぐのがとてつもなく心苦しくて自然と語尾が小さくなっていった。


そんな私の心の内を知ってか知らずか、なにかを考えるような表情をしていた英二さんがフワリと微笑んだ。

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