狡猾な王子様
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ポツ、ポツ、ポツ、ポツ……。
雨粒とフロントガラスが奏でる音が耳に届いたのは、木々が生い茂る道を抜けた頃だった。
英二さんの言葉通りに降り出した雨は、出番を待っていたかのようにみるみるうちに強くなっていく。
さっきまではどんよりとしていただけだった空は本格的に暗くなっていて、時計を見なければ昼間だということを忘れそうなくらいだった。
今朝までとは打って変わってしまった、私の心の中。
それに限りなく近い空模様に、思わず自嘲混じりの小さな笑みが零れた。
「……っ」
笑ったつもり、だった。
笑えた、と思っていた。
だけど……。
そのすぐあとに頬に感じた温もりは、空から落ちて来る雫とよく似たようなもののせいだと気付いた。
次々にポロポロと零れ落ちていく涙が小さな音を立て、洗い晒しのデニムにグチャグチャな水玉模様を作っていく。
“どうして泣いているのか”なんて、愚問でしかない。