狡猾な王子様
英二さんが、好き。


ずっと気付かない振りをして来た感情を自覚するのは、まるで瞬きをするようにほんの一瞬のことだった。


初めて会った時、絵本の中から飛び出して来た王子様のような英二さんにとてもドキドキした。


会話を交わせば、少女漫画を読んだ時のように胸の奥がキュンと締め付けられた。


だけど……。


それは、恋になる程のものではなくて。


ちょっとかっこいい先輩への憧れとか、芸能人に対するときめきとか。


そんな気持ちと、とてもよく似ていた。


そのうち、それが少しずつ少しずつ膨らんでいって。


簡単な憧れやときめきなんかでは、次第に収まらなくなっていって。


気付いた時には、恋にまで成長していた。


それなのに……。


自分自身にまったく自信が持てない私は、英二さんを目当てに木漏れ日亭にやって来る女性客たちと比べては卑屈になって……。


今の今まで、この感情を恋だと認めることすらできていなかったのだ……。

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