狡猾な王子様
意外なきっかけで認めざるを得なくなった気持ちは、私が思っていたよりもずっと大きくなってしまっていたみたい。


ワイパーでフロントガラスを磨いても、瞳から溢れる雨のせいで視界はぼやけたままで……。


どうしたってその雫は止まりそうになくて、止むを得ずウィンカーを出して車を路肩に寄せた。


そのままハンドルに頭を預け、唇を噛み締めて必死に涙を止めようと試みる。


英二さんと付き合えるとか、浮かれたようなことを思っていたわけではない。


そんな身の程知らずな夢を見る程、バカではないつもり。


私なんかが相手にされるはずがないと自覚しているから、実らない恋だとちゃんとわかっている。


わかっているつもり、だったのに……。


彼女でもないのに英二さんの近くにいられる女性の存在を目の当たりにして、とてつもなく胸の奥が締め付けられてしまった。


『恋人だよ』って言われていた方が、きっとまだ苦しくなかった。


こんなにも、つらくはなかった──。

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