狡猾な王子様
「こんなにひとりで食ったらデブるぞ」


「どうせ、もうデブだもん……」


「お前は、まだギリギリぽっちゃりレベルだよ」


歯に衣着せぬ秋ちゃんにますます悲しくなるけど、図星とあっては返す言葉もない。


こんな時は記憶を失くすくらいお酒を飲めたらいいのだろうけど、アルコールに弱い私の中には最初からその選択肢はなかった。


「秋ちゃんはいいなぁ……」


「なにが？」


お父さんに呼ばれて居間を出て行くお母さんを横目にポツリと言うと、秋ちゃんは片手で二本目の缶ビールのプルトップを開けながら僅かに首を傾げた。


目付きの悪い秋ちゃんの切れ長の瞳が私を射抜くようで、バツが悪くなって視線を逸らしてしまう。


「歯に衣着せぬ、っていうのはどうかと思うけど……。誰にでも思ったことをはっきり言えちゃうとことか、本当にすごいよね……」


他人の前では言いたいことの半分以上を呑み込んでしまう私にとって、誰に対しても物怖じしない秋ちゃんの性格は羨ましい。

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